乳幼児健診での
取り組み
\\日本の自治体で初めての取り組み//
熊本県玉名郡長洲町の乳幼児健診で採血なしのヘモグロビン測定導入
2022年春、日本の自治体で初めて熊本県玉名郡長洲町の乳幼児健診に採血不要(非侵襲)のヘモグロビン測定が導入されました。ラブテリが「こども貧血共同研究」を手がける上で目標としていた乳幼児健診への導入はコスト・マンパワー等さまざまなハードルがあり、導入に向けたお手伝いをさせていただくことで課題を把握することができました。担当者である西川さん(管理栄養士)の存在なしには実現できなかった乳幼児健診への導入について、きっかけや導入への課題についてお話を聞かせていただきました。
貧血について「知る」「測る」をきっかけに、栄養の重要性を伝えたい
ーー非侵襲でのヘモグロビン測定は自治体初の導入となりますが、動機についてお聞かせください。
ヘモグロビン測定の導入は、行政栄養士として、町民のみなさんへ乳幼児期の貧血について広く周知すると共に栄養の重要性を伝えたいという思いからです。また、検査の機会を提供し早期改善につなげることが必要と感じているためです。
私自身、妊娠中の貧血がなかなか改善せず、子どもが風邪で受診した際に採血をして貧血が見つかり内服治療を受けました。貧血と診断された際に、妊娠中改善できなかった自分の責任を感じ後悔すると共に、こどもの貧血に気づかずに過ごしていたら、と考えるととても怖くなりました。この経験を通して、貧血について知識がないことや検査の機会がないことは、その後の一生を左右する可能性があると感じました。
その頃はまだ行政の栄養士ではなかったので母子に関わることができなかったのですが、その後学生の頃から目指していた行政栄養士になったことをきっかけに、母子栄養にも力を入れたいと考えていました。そして、栄養士会の表彰を受賞されたことをきっかけにラブテリのことを知り、おやこ保健室のように貧血検査を導入できないかと考える様になりました。また、日本は世界と比較しても乳幼児の貧血の実態が不明であり、対策がとられていない等、課題が多いことも知り、改善の為には自治体での検査の推進が重要であると考えました。
町の課題としても、お子さんの成長発達に不安のある保護者の方が増えていること、栄養に関するお話をしても改善が難しい方がいることもあり、貧血検査を導入することは様々な面から現状を改善できると考え、導入を目指すこととなりました。
ーー導入にあたり苦労した点があればお聞かせください。
乳幼児健診に貧血検査を導入するに当たり、まず苦労したのは検査や結果の説明等をどのようにして時間内に組み込むかということです。乳幼児健診は、現在新型コロナ感染対策としてなるべく密にならないよう、短時間で効率よく終了することを重視しています。そのため、待ち時間や少しの空き時間を活用していかに効率よく行うか、人員確保と方法を検討することに苦労しました。
付き添いの保護者も測定することで、家族の健康サポートも
ーー非侵襲でのヘモグロビン測定を乳幼児健診で実施することの意義についてお聞かせください。
貧血について「知る」そして「測る」機会をみなさんに提供することに大変意義があると考えます。子どもは血液検査を受ける機会がほとんどなく、自覚症状は重症でない限り気づきにくいこともあり、貧血と気づかずに過ごしてしまう可能性が高い中で、目安ではありますが非侵襲で検査を受けることで保護者の方の不安解消や知る機会を提供できます。また、検査を受けたいと思っていても、泣いて嫌がる子どもを看護師さん数名で抑えて採血をする様子を見るというのは親として辛いものでもありますので、痛みがなく測定することができることも重要です。
また測定を通して、結果は貧血ではない場合にも、乳幼児期の栄養の重要性を感じてもらうことができると思います。さらに、保護者の方も一緒に測定することで、お子さんだけではなく保護者の方も健康に過ごせるようなサポートにもつなげたいと考えています。乳幼児期だけではなく若年女性の栄養改善にもつなげる機会としたいと考えます。
さらに、自治体の乳幼児健診への採血検査導入は看護師の確保や採血時間の確保等導入へのハードルが高くなりますが、非侵襲の場合は機器の導入のみで短時間での測定であり、導入しやすいという利点もあります。
周囲の賛同・協力と、日本の乳幼児期貧血の実態解明への思いがモチベーション維持に
ーー自治体として新しいことを導入するにはさまざまなハードルがあると思いますが、西川さんのモチベーションが途切れなかった理由をお聞かせください
貧血検査を事業として提案した際に栄養士の先輩、上司、そして町長より賛同いただいたことがモチベーションを維持できた要因です。検査を導入するに当たり、継続的な予算やマンパワーの確保が課題であり、新規事業として提案することを迷いましたが、行政栄養士だからこそできることだという思いと、それを後押ししてくださったみなさんのおかげで実現に至りました。
また、日本において貧血に関する実態把握や研究がすすんでおらず、まずは実態解明が必要であることも実現したいという思いを持った要因の1つであり、モチベーションが途切れなかった理由です。諸外国のように、国を挙げて貧血改善に取り組むこと、改善できる食環境整備を実現するためには実態把握が必要であり、そこに寄与するためには自治体への導入が必要であり、長州町への導入から全国へ広がってほしいと考えています。
保護者の貧血への関心は想像以上に高い
ーー乳幼児健診でのヘモグロビン測定を実施し、町民の方々の反応はいかがでしょうか
採血なしで、痛みもなく簡単に検査できる機器があることへの驚きと、貧血が気になっていたのでぜひ測定したいという声が多く聞かれました。現在7か月児、1歳6か月児、3歳児健診時に実施していますが、7か月児では測定の難易度が高く時間を要してしまいます。それでも「測定して帰りたい」という保護者の方が多くいらっしゃることは予想外で驚きを感じると共に、皆さんの関心の高さを実感し、導入して良かったと感じています。
日本における貧血の改善へつながることを期待
ーー自治体初の取り組みとなりますが、今後どのような成果を期待されますか
貧血の早期発見、治療による改善はもちろんですが、その後の学童期以降の成長期に多い貧血も減少できるように事業を展開していきたいと考えています。
また、今後は測定だけではなく、アンケートや健診データを活用した乳幼児期の貧血の実態調査を行う予定です。大学の先生方にもご協力いただき、共同研究という形で日本でもデータの少ない乳幼児期の貧血について実態解明に寄与していきたいと思います。
さらに、長洲町での取り組みが他自治体にも広がり日本における貧血の改善へつながっていくことを期待します。
ーーお忙しい中、ご回答いただき深謝いたします。